呪術合戦 その4

宇賀神先生がフィリピンの呪術師に、呪い返し(封じ)のためにつけられた「氣」でできた網は、宇賀神先生が外されるまで、その呪術師の周りに存在します。

すると、彼はその後一切の呪術が(よい方も悪い方も)効かなくなり、呪術師としてのお仕事が成り立たなくなります。

もちろんそれだけでなく、健康だって害されるでしょう。

もし本当に、その呪術師がG氏を死ぬまで呪おうと思っていたのでしたら、そっくりそのまま、自分が死んでしまうまで呪い続けられたことになります。

もちろん呪術師が呪うことをやめれば、少なくとも健康を害するようなことはありません。

 

G氏の指の壊死のような症状はとまり、その後もG氏は元気に暮らしておられます。

そこから考えますと、この呪術合戦は宇賀神先生が勝たれたことになるのでしょうね。

(当然じゃないか、という先生のお声が聞こえてきそうです。)

 

ですが、なんとも後味の悪い話です。

G氏が助かりましたのは、もちろん何より良かったです。

彼は宇賀神先生の大事なお友達でもありますから。

そして、確かに(依頼されたと申しましても)人を呪い殺そうとすることは、とても良くないなぁとも思います。

そんな力があるのなら、もっといいことの方に使えばいいのに、と思います。

ですが、万が一、自分に呪いが返ってきていても「相手が死ぬまで続けよう」と思って続けたため、その呪術師が死んでしまっていたら?

そこまでしなかったかも知れませんが、宇賀神先生はその時以降、彼から氣の網を取り除いていないわけですから、少なくとも呪術師(蟲使い)としての職業が成り立たなくなって、ご飯を食べる手段を失ってしまい、路頭に迷うようなことになってしまっていたら?

その責任は誰にかかるのでしょう。

 

もちろん現実世界での責任問題の話ではありません。

現実の世界では、人を呪ったり、それを返したりすることで罪には問われません。

私は、宇賀神先生が将来天寿をまっとうなさり亡くなられて、佛さまの御前に行かれましたときに、

「お前は人を助けるためとは言え、人を殺したね?」

と、怒られないかを心配しているのです。

(「絶対、大丈夫!」って宇賀神先生はおっしゃるのですが。)

 

また、宇賀神先生みたいな人に呪い返しをされなくても、このフィリピンの呪術師に限らず、「人を呪わば穴二つ」と申しますのは、本当です。

ちょっと汚い言葉ですが、「天にツバする」は、まさに的を射た表現です。

誰かに意図的に呪い返しをされなくても、残念ながら、自分がした呪いはやがて自分自身にかえってきます。

道徳的な教えとしてではなく、現実問題として、人を呪ったりしますと、その分自分にも不幸が返ってくるのです。

他者への善なる祈りが自分に善のパワーとして返ってくるのと同様に、他者への悪い思いは、悪いパワーとして自分自身に返ってきます。

 

しかもその人の運勢の強いとき、例えば若く健康で、力や希望に溢れておりますときは、

「人盛りに神祟りなし」

と、申しますように、自分のした呪いが自分にハネ返ってくることは少ないです。

ですが、それは、呪った人の運勢が弱ってきたときに限って、返ってくるのです。

まさに「弱り目に祟り目」とはこのことです。

昔の人の色々なことわざが、あまりにも的確すぎて驚いてしまいます。

 

深江のお稲荷さんは以前、宇賀神先生にこのことを

「返り念(かえりねん)」

として教えてくださいました。

 

自分のしたことは、やがて自分に返ってくる。

だから、力のある者ほど、その力を悪いことに使ってはいけないのだ、と。

 

ハリウッド映画のスパイダーマンのセリフではありませんが、

「大いなる力は、大いなる責任がともなう」

のですね。

 

このことを知らず、自分の力の及ぶまま好き放題してしまいますことを、

「力に溺れる」

とか、

「術に溺れる」

と申します。

 

宇賀神先生がG氏の件などで呪術師に相対なさるとき、積極的に相手の方を呪うのではなく、相手のしたことをそのまま返す形で応戦なさるのは、そのためです。

 

たぶん、武術武道をなさっている方には、この感覚は想像しやすいのではないでしょうか。

ご自身が鍛錬なさり、武術の実力がつけばつくほど、安易に素人相手のケンカなどなさいませんよね。

相手の方にケガを負わせた責任が、重くのしかかってきますから。

 

宇賀神先生なんかは大変ですよ。

ちょっと、人に腹を立てたりなさいますと、自分の「力」が勝手に相手にダメージを与えようとしてしまいます。

無意識のうちにも。(実は意識してたりして?)

ですが、宇賀神先生の強い強い念の「返り念」を受けますのは、他でもない、宇賀神先生ご自身です。

しかもご自分の運勢が弱ったときに限って。

 

そんなの、いやですねぇ。

 

このG氏の件では、彼が助かり、本当によかったと思います。

時代劇の鬼平犯科帳(おにへいはんかちょう)の鬼平さんではありませんが、

「善にも強えェが悪にも強えェ。」

だなんて、宇賀神先生は、ちょっとカッコイイですね。

ですが、お若い頃はかなりのやんちゃでいらした先生です。

どうか先生は術に溺れず(ちょっとしたことに腹を立てず!)、そのお力をいいことにのみ使っていただきたいと願っております。

 

***

 

さてさて、今回の一連の呪術合戦は、20数年前のフィリピン人の蟲使いの方のお話でした。

それが、現代の日本でも、このようなことがあるだなんて、皆さんは信じられますか?

悲しいかな、あるのですねぇ、これが。

そして宇賀神先生は現時点でも、ご依頼を受けて、ある方をお守りしています。

まあ、ですが、宇賀神先生が霊視なさった相手の呪い方が、なんとも醜く、よくもそんなことができるなぁ、と驚きます。(美しい呪いがあるとも思えませんが。)

まだこれは現在進行形で続いておりますし、ちょっとダークなお話が4話も続きまして、少々疲れてしまいましたので、いずれまた折りを見ましてこのことはお話したいと思います。

明日以降はまた何か明るいお話をいたしましょうね。

気が重いお話に長々とおつき合いくださり、ありがとうございました。

 

合掌