呪術合戦 その3

使い魔の猫ちゃんたちにG氏の護衛を頼むことになさったとは言え、G氏が宇賀神先生のところへいらしている間、ずっと呪いの針が飛んできていました。

なんと彼は体調不良を理由に?仕事を休まれ、宇賀神先生のお家に何日も滞在なさっていたのです。

遥か彼方のフィリピンから飛んできます針をひとつひとつキャッチしましては、猫ちゃんたちが元の蟲使いめがけて投げ返してくれます。

猫ちゃんたちは、健気にも自らすすんで呪い返しをしてくれていましたが、あまりにも絶え間なく呪いの針が飛んできますので、宇賀神先生がちょっと策を講じました。

 

1本ずつ飛んできます針を猫ちゃんたちにキャッチさせ、手元に集めます。

そしてそれを数日かけてかなりの数にしましてから、一気にバサーッと向こうに返すのです。

針を1本ずつ返すのではなく、何千本という束にして返すような状態をつくったのです。

1本が刺さりましてもG氏が苦しむような針です。

それが何千本もの束で返ってきましては、その蟲使いもたまったものではなかったのでしょうねぇ。

それ以来、ピタリと針が飛んでこなくなったそうです。

 

G氏は東京にお住まいですので、一安心なさり、ご自宅に帰られました。

もちろん念のため宇賀神先生はしばらくの間、猫ちゃんたちを護衛として彼につけてあげました。

 

ところが、G氏が東京に帰られてしばらくしますと、再び痛みが襲いはじめました。

今度は、初めのとは違う種類の痛みです。

手の指が痛くなり、G氏がお医者様に行きますと、「壊死しかけている」と告げられました。

びっくりしたG氏は、東京にいらっしゃる宇賀神先生のお弟子さんのE先生のところへ行かれました。

 

E先生が「氣」でもってG氏の指の痛いところを切り裂きますと(もちろん、目に見えない氣のボディ=微細身《みさいしん》を切るのであって、現実の身体を切るわけではありません。)、そこから黒い煙のようなものがモワァッと出てたそうです。

これが新たな呪いの正体かと、お二人とも驚かれました。

そしてまた、G氏は宇賀神先生にご相談なさいました。

 

フィリピンの蟲使い(も呪術師の一種です)の事情にはG氏がお詳しいのですが、なんでも呪術師の組織のようなものもあり、例えばある蟲使いが呪いに失敗しますと、その方の師匠のところへ行き、加勢を頼むのですとか。

そうして今度は二人がかりで呪いを行うそうなのです。

もう20数年も前の話ですが、こんなシステムが今でもあったらイヤだなぁ、と思います。

 

G氏から再び助けを頼まれた宇賀神先生、今度はとうとう頭にきました。

「だいたい、人を呪い殺すことを職業にしていること自体、許せなかった。」

と、おっしゃっています。

 

今度は完璧な「呪い返し」をなさいました。

 

それはどのようなものかと申しますと、要は、氣でできました網のようなもので、その呪術師(蟲使い)をすっぽりと包んでしまうのです。

そうしますと、彼が放った呪いが例えどんなものであれ、そっくりそのまま彼のもとへ返り、その網を抜けて外へ及ぶことはないのだそうです。

つまり、人を呪えば呪うほど、そしてそれが強力であれば強力であるほど、それを放った術者自身が苦しむことになります。

まさに「人を呪わば穴二つ」状態を作ってしまうのです。

 

ただ、宇賀神先生は普段はここまでなさいません。

いくらはじめに呪いをかけた呪術師が悪いと申しましても、

「人がご飯を食べるお茶碗を持つ左手と、お箸を持つ右手をたたきおとし、食べられなくすることは良くない。」

と申しますのが宇賀神先生の信条です。

その人の生命線(ご飯を食べる手段)を絶つことをよしとなさいません。

 

ですが・・・

 

人の生命線どころか、生命そのものまで奪おうとするほどの呪いには、さすがに腹を立てられたのでしょうね。

ついに、一番強い呪い返しをなさいました。

 

(その4につづく)

 

合掌