宇賀神先生は生まれて初めて幽体離脱を体験なさり、痛くて立つこともままならないほどの腰痛をご自身で治してしまわれました。
どんな仕組みで痛みがとれてしまいましたのか見当もつきませんでしたが、腰痛がとれましたのを幸いに、もとの職場に復帰なさいました。
それからほどなくしてのゴールデンウィークの帰り道に、宇賀神先生は福島県の横向温泉(よこむきおんせん)に立ち寄られました。
39年ほど前のその時は、当時結婚なさっていた前の奥さんとご一緒でした。
横向温泉は、地下に降りていきますような形で温泉がありました。
しかも地下3階まで降りるような、男女混浴の温泉でした。
宇賀神先生がお若い頃の東北地方の温泉には湯治文化が色濃く残っておりまして、たくさんのお年を召した方達が、お身体を治すために温泉宿で何日も滞在なさっていました。
先生の奥さんがお風呂で出会われたおばあさんが、ご主人さんのことを話されたそうです。
なんでもその方のご主人さんはお若い頃から渓流釣りがお好きで、冷たい水につかりながら何時間も釣りをなさっていたそうです。
そのためずい分と腰を痛めてしまわれ、この横向温泉にいらしている、と。
ですが、ここの温泉浴場が地下にありますため、まず地下への階段を降りることができず、結局温泉に入ることも叶わずにいらっしゃいました。
そんなお話をお聞きし、何を思われたのか宇賀神先生の前の奥さんが、
「うちのお父さんなら治せるかも知れないよ」
と、おっしゃったそうです。
すぐ隣の浴槽に入っておられた先生がその話を聞かれ、
「そんなのやったこともねぇし、治るがどうか分かんねぇよ。」
とおっしゃいましたが、もうおばあさんはその気です。
少しでも望みがあるなら是非にも、と頼まれました。
宇賀神先生はその時はもちろん人様を治されたこともなく、またご自身もどうしてあんなひどい腰痛が消えてしまったのか分かりませんでしたが、とにかく、頼ってこられたそのおじいさんのために一所懸命治そうと試みられました。
あの幽体離脱をなさったときに眼下の自分がしていた動きを思い出しながら、そのおじいさんの足にも同じ動きを再現してさしあげたそうです。
もちろん「氣」というものを意識なさりながら。
するとどうでしょう、ついさっきまでお座布団1枚の高さにもつまずかれるようでしたおじいさんが、兵隊さん歩きのように足を高々と上げて行進なさるではありませんか。
おじいさんの腰の痛いのが、治ってしまいました。
これにはおじいさんやおばあさんはおろか、宇賀神先生ご自身もびっくりなさったそうです。
「どうもやはり、わしには不思議な力があるらしい。」
宇賀神先生はそのとき、確信に近いものを持たれました。
翌朝、宇賀神先生と前の奥さんがチェックアウトして宿を出ようとなさいますと、宿の方が、
「昨日、足の悪いおじいさんを治したのはあんちゃんかね?」
と、尋ねられました。
「そうです。」
と、先生が答えますと、
「ちょっ、ちょっと待っててけろ!」
とその場で待たされました。
すると、宿の奥から、それこそ宿中の人かと思われます程たくさんの方達がぞろぞろとやって来られ、
「あんちゃん、あんたあの足の悪いおじいさんを治したんだ。
是非わしらのことも治してはもらえんだろうか。」
と、頼まれたそうです。
(その3につづく)
合掌