今から15年程前の話です。
日本の某有名大学の助教授の方からご依頼を受けまして、宇賀神先生がインドへ行かれました。
助教授の方が信仰なさっていたインドの聖者さまが末期のリンパ癌を患っておられ、そのお加持にきてほしいとのことでした。
先生がはるばる飛行機に乗りましてインドの病院に着きますと、その女性の聖者さまが入院なさっている10畳ほどの病室と、そこから外の廊下までビッシリと信者さん達で埋まっていたそうです。
皆さん裸足で床に座り込んで、聖者さまのために一心にお祈りなさっていたそうです。
聖者さまのガンは、宇賀神先生から見ましても、難しい段階でした。
それでもご依頼くださった助教授の奥様の通訳のもと、お加持させていただきました。
宇賀神先生の氣を用いましたお加持は、重い病気を患われている方には特に、お加持後に心地よい疲労感を伴います。
1度目のお加持が終わり、2度目との間に2時間ほど空けましょうということで、先生と通訳をしてくださっていた方とで昼食に出かけられました。
2時間後に病院に帰ってきますと、廊下に座り込んでいらした方達から病室中の方達まで、皆さん床をこぶしで叩いたり頭を叩いたりなさって、それはそれは大変な嘆きようだったそうです。
驚いた宇賀神先生が通訳の方に尋ねますと、
「聖者さまが眠ってしまわれた!」
とのことでした。
見ますと、
「グオー・・・!!・・・ガゴー・・・!!・・・ムニャムニャ」
と豪快にいびきをかいて寝ておられます。
よくあることなんだけど、と宇賀神先生が不思議に思っておりますと、通訳の方いわく、
「聖者さまは世界平和のため、人々のため、ひと時も休まず、何年もの間一瞬たりとも眠ることなく、祈りを捧げ続けられている」
とのことでした。
「その聖者さまが寝てしまわれた・・・世界が終ってしまうー!!!」
と、皆さん大号泣だったそうです。
なかには、宇賀神先生のことを指さして「お前のせいで聖者さまが寝てしまわれた」とばかりに怒りの目を向けて、何か叫んでいる方もいらっしゃったそうです。
「あっちゃー!」と思った宇賀神先生、とっさに、
「おーんーさらばーたーたーぎゃーたーーーはんなーまんなーのうーきゃろみーーー」
と、真言宗の普礼(ふらい)という佛様へのご挨拶のご真言を、芝居気たっぷりにことさら引き伸ばして唱えながら、聖者さまの足元に礼を尽くしてひれ伏したそうです。
真言宗でお唱えするこのようなご真言というものの起源は古代インドのサンスクリット語ですので、インドの方達もどこか聞いたことのある言葉であればと願って、しかもそれをさらにもっともらしく長引かせて唱えられました。
すると今まで嘆き悲しんでおられた信者さん達が一様にシーンとなり、皆さん落ち着かれました。
そして宇賀神先生は通訳の方を通じて、氣によるお加持を受けますと、どなた様もこのように疲れて寝てしまわれ、それにより回復するのです、とかなんとか取り繕われたそうです。
もちろん心の中では、
『“一睡もせずに祈りを捧げ続ける”なんてウソをつかなきゃいけないなんて、聖者さまも大変だなぁ』と思いつつ。
人間は生きている限り睡眠は必要です。
そんな根本的なことまでウソをつくと、自分で自分を苦しめてしまいます。
それと同じく昨日お伝えしました、お釈迦さまの御教えの生老病死の苦しみは、誰一人の例外なく受けるということ。
宇賀神先生も、もちろん例外ではありません。
あたりまえのことを、あたりまえに。
お偉い教祖様ぶらずに飄々と仙人のように楽し気に生きてらっしゃる宇賀神先生。
私はそんな先生が大好きですが、それでは物足りないという方もいらっしゃるかもしれませんね?
事実そのインドの聖者さまにはもの凄い数の信者さんがいらっしゃいました。
そういえば後年、インドに招いて下さった助教授とは全然面識のない、ヨガの先生をなさっていた日本人女性が、宇賀神先生のもとにいらしてくださいました。
その方がヨガの勉強のためにその聖者さまのところへ修行に行かれたことがあったと偶然お聞きして、「そんなに日本のヨガ界でも有名な聖者さまだったの?」と、びっくりしたことを思い出しました。
ですが、いくらたくさんの方達にあがめられ、世界的に有名だったとしましても、人目を盗んででないと寝られない生活、というのはイヤですねぇ。
そうそう、これもまた本当のことですが、宇賀神先生は確かに病気もなさいます。
ですが、そのご回復はあり得ないほど早いのです。
先生はそのことを「野獣の回復力!」とご自身でおっしゃっています。
やっぱりちょっと、普通の人とは違うように思います。
合掌